先日「AIが勝手に稼ぐ」などと勧誘して650億円も集めたとして出資を募っていた者が逮捕されたというニュースがありました。投資会社に出資すれば、仮想通貨の売り買いで高い配当が得られるなどと説明したと言われています。
また、女性装ってマッチングアプリで男性に投資勧誘をした者も逮捕されたという報道もありました。独自の仮想通貨を発行し、ビットコインやリップルなどの既存の仮想通貨と交換する形で投資させていたとのことで、ここでも仮想通貨を用いた違法行為が行われています。
最近、このようないわゆる仮想通貨詐欺に関するニュースをよく目にします。
仮想通貨と聞くと「なんとなく怪しい」と感じつつも、とても儲かったなどという話も聞くため興味がある方もいるかもしれません。問題のない仮想通貨取引であればもちろん自己責任の範囲ですが、投資・投機として行うことは問題ありません。他方、上記のように、仮想通貨取引といういかにも儲かりそうな話をネタに人を騙すケースもあります。
このようなケースでは一度被害に遭うと、そのお金を取り戻すことは至難の業です。ですので、そもそもそのような詐欺に騙されないことがとても大切になります。
そこで、この記事では、まず、仮想通貨取引の概要について簡単に説明した上で、仮想通貨詐欺に見られる9つの特徴について解説します。
なお、仮想通貨は、現在、正確には「暗号資産」という用語に法律上変更されていますが、本記事では、なお一般的に利用される「仮想通貨」という用語を用いることもありますが、同じものとお考えください。
そもそも仮想通貨取引とは
仮想通貨とは、ごく簡単にいえば、インターネットを通じて取引できる財産的価値で法定通貨(円)ではないものをいい、有名なものとしてはビットコインやイーサリアムなどがあります。
仮想通貨を利用して利益を上げる方法としては、これを取引することで値上がり益(キャピタルゲインといいます。)を得る方法と、マイニングといって仮想通貨取引に必要な計算を得ることで報酬を得るという方法があります。マイニングには多くのパソコンと電力が必要であり、一般の方は行なっていませんし、また、契約に基づく取引などでもなく詐欺も少ないと思われるため(マイニング工場を運営して莫大な利益をえられるから出資しないか?というような詐欺は考えられますが、マイニングそのものを行うわけではないという趣旨です。)、ここでは割愛し、取引によるキャピタルゲインにおける詐欺を前提にします。
もうすこし噛み砕くと、仮想通貨は株式やFXなどのように常に値段が変動しています。特に仮想通貨はこの変動率が株式やFXと比べて高いことから大きな利益が上がりやすいです。もちろん、その反対で損もしやすいということです。
たとえば、ビットコインは、2021年4月14日時点では1ビットあたり約689万円、同年7月20日時点では1ビットあたり325万円、同年11月13日時点では1ビットあたり約734万円となっています。
7月20日に325万円で1ビットを購入し11月13日にこれを売却すれば、その差額である409万円(734万円–325万円)が利益になります。逆に、4月14日に高値の689万円で1ビットを購入していた場合、7月20日時点はその価値が325万円となってしまうということです。
このように、仮想通貨取引というのは、法定通貨(円)などで仮想通貨を購入し、仮想通貨の価値があがった時にこれを売ることでその差額の利益を得るというのが基本です。他にもありますが、基本はこのキャピタルゲインによる利益となります。
仮想通貨詐欺によく見られる9つの特徴
さて、以上を前提に、本題である、いわゆる仮想通貨詐欺によく見られる9つの特徴について解説します。
以下のいずれかに該当いたから必ず詐欺であるというわけではありませんが、持ちかけられている取引がいずれか一つにでも該当したら、詐欺を疑い、冷静になったほうがいいと言えます。
登録暗号資産交換業者ではない者による取引であること
仮想通貨に関しては資金決済法という法律があり、この法律によって、内閣総理大臣の登録(実際は金融庁がこれを行なっています)がなければ、仮想通貨を売買やその取り次ぎを業として行うことはできません(資金決済法第2条7項、同8項、第63条の2)。
これは簡単に言えば仮想通貨取引所を運営するためには、金融庁の登録を得ていなければならないということです。
仮想通貨取引所は、口座開設者から日本円と仮想通貨を交換したり(売買)、仮想通貨を買いたい口座開設者と仮想通貨を売りたい口座開設者をマッチングしたり(取り次ぎ)して取引所を運営しており、その手数料やスプレッド(売りと買いの差額)で利益を上げます。従ってこれを行うためには交換業者登録が必要ということです。
2021年11月14日現在、暗号資産交換業者として登録を受けているのは、こちらのリストに掲載されている31社です。
有名どころで言えば、以下のとおりです。
- bitFlyer
- GMOコイン
- DMM Bitcoin
- コインチェック
これら以外の業者はそもそも仮想通貨の売買や取り次ぎを業として行うことができませんので、その時点で違法業者です。
ちなみに、登録交換所の口座を利用して取引をするけど、どのように運用したらいいかわからないと思うので、私たちが代わりにやります!という場合も売買の「代理」になりますから、その代わりにやる会社も交換業者として登録していないといけません。
したがって、上記暗号資産交換業の登録を受けていない事業者が仮想通貨取引について出資を促すような話については冷静になったほうがいいです。
ホワイトリストに載っていない仮想通貨の取引であること
上記登録業者であることとも関連しますが、登録した上で扱うことができるコインも決まっています。このリストのことをホワイトリストといいます。
ホワイトリストも先ほどの登録暗号資産交換業者のリストの横に取扱い可能な仮想通貨が記載されています。
また、一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)という団体があるのですが、そこが取扱可能な仮想通貨の一覧表を作成しております。
先ほどの詐欺のニュースでも「ArkCash(アークキャッシュ)」や「Biomex(バイオメックス)」といった独自の仮想通貨の話を持ちかけたとあります。
仮想通貨は技術さえあれば容易に新たなコインを発行可能です。新たなコインを発行することをICO(イニシャル・コイン・オファリング)と言いますが、そのようなコインが登録されていることはまずありません。
したがって、そのような投資話には乗らないほうが良いでしょう。
外国の交換業者などが関与していること
「今回の取引ではシンガポールの取引所を利用して、日本では実現できない利益を可能としているんです!」
なんだかありそうな話ですが、日本の資金決済法には以下のような条文があります。
(外国暗号資産交換業者の勧誘の禁止)
第63条の22 第63条の2の登録を受けていない外国暗号資産交換業者は、国内にある者に対して、第2条第7項各号に掲げる行為の勧誘をしてはならない。
資金決済法
要するに外国の仮想通貨交換業者であっても、登録なくして仮想通貨の売買や取り次ぎの勧誘を日本に住む人に対してはできないということです。
つまり、先ほどの勧誘自体も登録なくはできません。これをする事業者は違法業者といえます。
現金取引を求めること
仮想通貨取引は指定の銀行口座に送金することで仮想通貨取引所の自分の口座に資金が入り、これを使って仮想通貨取引をするというのが一般的です。
これに対して仮想通貨取引詐欺では、現金を持参させ、それを業者側で取引口座に入れるなどという手口をすることがあります。
これは証拠を残さないための可能性があります。
これが詐欺事件として刑事裁判となった場合、詐欺を立証しなければならないのは、検察側です。また、詐欺なので資金を返して欲しいという民事裁判をする場合に、詐欺を立証しなければならないのは訴えを起こす被害者側です。
民事事件と刑事事件の違いはこちらの記事をご覧ください。
また、請求をする側が権利の主張と立証をしなければならないというのが裁判のルールという点については以下の記事で触れていますので、あわあせてご覧ください。
詐欺というためには、相手が騙したこと、これにより被害者が騙されたこと、それに基づいて金銭が交付されたことを主張・立証しなければなりません。
現金取引をされてしまうと、領収書などがない限り、これに基づいて金銭が交付されたことが立証できません。
違法業者としてはそのような狙いがあって現金取引を求めるのです。要するに足がつかないということですね。
口頭ばかりで書面を残したがらないこと
現金取引を求めるのと同じ理由です。騙したことを主張・立証しなければならないのは被害者側であるため、これに関する証拠を残したくないのが違法業者の思考です。
契約書は契約成立の必須条件ではないことが多いですが、立証の手段としては有用です。
契約書を作成しない取引には気をつけましょう。
なお、ネット上の取引ですとネット上の記載を持って契約内容とすることは一般的にもあります。例えば、アマゾンとは書面の契約書を締結しませんが、利用規約に従った契約が成立します。登録された仮想通貨業者との取引でもネット上に規約が表示され、それにしたがった契約になるというのは一般的に行われていますので、それ自体は問題ありません。
ただ、その規約内容を書面で欲しい、メールで送って欲しいというような記録に残る方法についてこれを拒むような場合は要注意です。
やたらと複雑なスキームであること
「お客様のお金はいったん○○という会社がお預かりします。それをいったん、××という業者に送りそこで運用をしますが、実際の運用は専門の△△に委託します。」などと、いろんな登場人物が出てきて複雑なスキームとなっていることがあります。
当たり前ですが、関係者が増えれば増えるほどその人たちの儲けを出さなければならないため、手数料が増えます。なので、より稼ぎにくくなるのが一般論です。
また仮想通貨取引は冒頭に説明したとおり、キャピタルゲインを得る方法が一般的ですので、そんなに複雑な取引が必要なものではありません。
違法業者としては難しい話を並べることで被害者が理解できなくなり判断力を失ったところに漬け込んで騙したりします。複雑なスキームを説明するのはそのための可能性がありますので、気をつけましょう。
投資できる一口が高額であること
違法業者が尻尾を掴まれやすいタイミングはいつでしょうか。それは、実際に被害者と接触している時です。
つまり、違法業者としては細かい取引を何度も行い、その都度、被害者と会わなければならないというのは避けたいものです。
したがって、一口を高額にして、少ない接触回数で大きな利益を狙いがちです。
仮想通貨取引の魅力の一つとして、小さな単位で購入することが可能という点があります。例えば、ビットコインは1ビット数百万円しますが、0.0001ビットから取引可能です。つまり、数百円の投資で買うこともできます。
大きな金額を最低額として求める取引には気をつけましょう。
他人に話をしないよう求めること
「秘匿性の高い取引で多くの人に知れてしまうと儲けが上がらなくなりますので、他言は無用です」なんてことを言われるかも知れません。
違法業者としては他人に相談することで「それ詐欺じゃない?」と被害者がアドバイス受けることを望みません。
どんな取引だって大きなお金が動くときは、家族に相談するなど慎重になることが大切です。多少話をした程度で投資として成り立たなくなってしまうような話はそもそも怪しい話と言えますので、気になったら信用できる人に相談しましょう。
やたらと儲かるということ
もはや言われ尽くされたことですが、そんなに儲かる話というのはこの世には存在しません。そんなに儲かる話であったり、人に言ったら儲からなくなるのであれば、その業者がこっそり自分たちだけでやるはずです。
うまい話などないということを再度認識して、楽して儲かる、何もしなくてもお金が増えるなどという話には乗らないことにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。これまでの経験から、仮想通貨詐欺の可能性がある取引の特徴を説明してきました。
なおこの点については金融庁も注意喚起のHPを作成しておりますので、併せてご確認いただくと良いです。
自分は大丈夫などとは思わず、常にその可能性を疑い、注意していただくのが被害者とならない1番の予防といえますので、是非、心に留めおいてください。
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