例えば賃貸借契約するときは契約書を作成し、ハンコを押すのが一般的です。他方、例えばコンビニで商品を購入するときは契約書は作成しませんし、ハンコなんてもちろん押しません。
普段はあまり考えることはないかもしれませんが、考えてみるとその理由がわからない方が多いのではないでしょうか。
本記事は、契約書ってなんで作るのか?ハンコはなんで押すのか?という疑問に応えたいと思います。
契約のために契約書は必要?
そもそも契約とは、簡単に言えば、法的強制力を有する約束のことをいいます。法的強制力というのは、国によって強制されるという意味です。この点については、以下の記事をご覧ください。
このような契約を成立させるために契約書を作成する必要はあるのでしょうか?
答えは、一般的にはNO、不要です。
一般的にはというのは、例外的に書面によることが契約成立の要件となっているケースがあります。保証契約が典型例です。
(保証人の責任等)
第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときは、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってなされたときは、その保証契約は、書面によってなされたものとみなして、前項の規定を適用する。
民法第446条
保証契約というのは、例えば銀行からAさんが100万円を借りた際、Aさんがこれ返せなくなる場合に備えて、Bさんを保証にとる契約のことをいい、BさんはAさんに代わって100万円を銀行に返さなければならなくなります。
このように保証契約はBさんにとって一方的に不利です。
このような状況で本当にBさんが理解して保証契約をしたことをちゃんと確保するために書面によることが要求されています。
保証契約のように書面で契約することが求められている契約で書面をを作ることはわかりましたが、たとえば、銀行からAさんが100万円借りる契約はどうでしょうか。
ちなみに、このような契約を消費貸借契約といいます。消費貸借というのは、借りたもの(100万円)を消費してもいいけど、それと同等・同額のものを返してくださいという契約です。借りるという契約には賃貸借もありますが、賃貸借は借りたもの(例えば家)をそのまま返すので、この点で消費貸借とは異なります。
話がそれましたが、消費貸借契約は書面で行う必要がありません。
では、なぜ契約書を作るのでしょうか。
これは証拠を残すためです。
銀行がAさんにお金を貸したのにAさんが返さない場合、銀行は裁判所にAに貸したお金を返せ(支払え)という裁判を提起することができます。
このとき、請求をする側が権利の主張と立証をしなければならないというのが裁判のルールなのです。
つまり、銀行はAさんとの間で消費貸借契約が締結され、それに伴ってお金を貸し付けたということを主張・立証しなければなりません。
ただ裁判所は「時を戻そう!」とかいって、過去に遡って契約を締結した場面を直接見ることができるわけではもちろんありません。そんなとき、契約書があれば、これに基づいた合意がなされたということが事後的にわかるという仕組みです。
ちなみに、裁判所も過去に何があったかわからない!ということはないんですか?!という質問を受けたりします。
もちろん、裁判所もいろいろ審理した結果、ある事実があったかなかったかわらないということは当然にあります。
でも、「わからないから判決は書けません・・・」ないというわけにもいきません。
このとき、先ほど述べた裁判のルールが重要になります。請求する側が主張・立証しなければならず、結論がわからないということはこれに失敗したということになります。その場合、裁判所はかかる事実はなかったものとして扱うことになり、結果、請求が認められないという判決を書きます。これを主張立証責任といいます。
たとえば、銀行が賃貸借契約の成立を主張・立証しようとしたが、裁判所として契約成立を認定できなければ、銀行の貸金返還請求は認められないということになります。
このように主張・立証しなければ請求が認められないため、その立証に使うために契約書を作成するのです。
ハンコの意義
それではハンコはどうでしょうか?
ハンコも契約が成立したことを立証するために押すものです。もっと言えば、誰が契約したかということを担保するために押印するものです。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
民事訴訟法第228条第4項
民事訴訟法というのは裁判のルールを定めた法律ですが、そこには上記のような条項があります。これはすごく簡単にいうと、印鑑登録された印鑑が契約書に押印されていると、その印鑑登録者がその契約書に記載していることに合意したことが推定されるとするものです。
先ほど保証契約は保証人に一方的に不利益といいました。なので、Bさんは簡単には保証人になってくれないかもしれません。
他方、Aさんとしては、Bさんのように保証契約を締結してくれる保証人がいなければお金を貸してもらえないので、なんとしてでも保証人がほしいところです。
そこで、AはBに無断でBの名前を使って契約書を作成してしまうかもしれません。そのようなとき、銀行が印鑑証明書の提出とその印鑑(実印といいます。)の押印を求めた場合、Bさんを勝手に名乗って契約することは難しくなります。これは、日本においては実印は重要で、むやみやらたと他人に利用させたりしないためです。
ですので、賃貸借でも消費貸借でも、保証契約を締結する際は、保証人となる者に印鑑証明書と実印の押印を求めるケースが多いです。この二つがあれば、保証人が契約したことが推定されますので、一旦立証に成功したことになります。
ただ、例えば、BさんはAさんの奥さんで、実印の隠し場所もAさんは知っており、無断でやったということをBさんがある程度立証できれば、この推定は覆ります。このように、実印と印鑑証明書による立証は万全ではありませんが、Bさんから上記のような疑義がなければそのまま認定されるため、その範囲でやはり立証は容易になります。
では、印鑑証明書の提出が求められない、または、実印ではない印鑑の押印はどういう意味があるのでしょうか。
これは法的には意味がないです。
あえて言えば日本は印鑑社会なので、押してある方がちゃんと作成されたものに見えるということでしょうか。これも、別にいわゆる三文判であれば他人が買ってきて押印できてしまいますので、保証人などの契約者が「私はこんな書面に押印していない!見たこともない!」と主張されると、推定のないレベルから立証する必要があります。たとえばメールのやり取りを当事者としていたので、当然知っていたし、銀行の担当者の面前で押印したという担当者の証言などが証拠により得ます。
まとめ
以上のとおり、書面は特に法律で要求された特定の契約以外では契約の成立には不要です。
ただ、あとで揉めた時(裁判となったときなど)に言った言わないの問題とならないように、証拠として残しておくということものです。
印鑑は押すのであれば印鑑証明書とあわせて実印を押印してもらわなければ法的にはあまり意味がありません。この印鑑は、誰が契約をしたかということを担保するものですので、保証人のように他人がなりすまして契約しそうな契約では特に有効ということです。
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