よく「民事」と「刑事」という用語を耳にすると思いますが、どういうことかわかりますでしょうか。なんか聞いたことはあるし、分かったふりしてたけど、実はよくわからないという方のために、本ブログでは、事例をもとにふたつの違いについて解説します。
事例
Aさんが車を運転中に、歩行者であるBさんをひいてしまい、大怪我負わせたという事案で考えてみましょう。
ちなみに、法的に考えるときは、いわゆる5Wをきちんと特定しなければなりません。ですので、上記のような事件でも、法的に考えるときは、たとえば以下のようにかなりきっちりと時日を特定した上で法的にどうなるかを考えます。
「Aは、令和○年○月○日午後○時○分ころ、普通貨物自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し、東京都○○区○○町○○番地先の交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)をX方面からY方面に向かって時速約50キロメートルで進行するにあたり、本件交差点入口の停止線(以下「本件停止線)という。)手前約30メートルの地点で対面信号機(以下「本件信号機」という。)が黄色信号を表示いているのをみとめたのであるから、制動措置を講ずるとともに、本件信号機が赤色の灯火信号に変更するのに従って本件交差点の手前で停止すべき義務があるのに、これを怠り、制動措置を講じて停止せず、本件信号機の信号表示を無視して、本件交差点出口に設けられた自動車横断帯を横断を右方から左方へ横断進行してきたB(当時30歳、以下「被害者」という。)に被告人車両前部を衝突させ、よって、全治不明の頭部外傷、急性硬膜下血腫等の障害を負わせた。」
法律の文章というのはとてもわかりづらく、敢えてわかりにくくしている、「交通事故で人を轢いて怪我をさせた」とわかりやすく書けばいいのに・・・という思われる方もいるかもしれません。ただ、裁判では、法的にAさんが本当に責任を負うべきか否か、負うとしてどのような責任かということをしっかりと審理しなければなりません。具体的には、Aはそもそもその場にはいなかったとしてアリバイを主張し、犯人性(犯人かどうか)を争うかもしれません。そのとき具体的にどこで起きた事故かというのはとても大切です。他にも、そんな自動車は所有していないので自分ではないとか、信号無視していない(青信号だった)とか、事故は起こしたけどもっと速度は遅く、怪我も大したことなかったとか、いろいろと細かな争点がたくさん出てきます。
上記のように具体的な事実を特定することは、審理の対象となる事実を特定することにほかならず、これにより、Aは自分の責任を否定するための防御が十分にできることにあります。逆に、そのように防御権を尽くさせたにもかかわらず、やはり責任があるということにも繋がりますので、事実を特定するというこは法律ではとても大切なことなのです。
刑事事件とは
上記の例でいえば、Aさんがどのような刑罰を受けるかを審理する手続きを刑事事件といいます。Aさんは交通事故を起こしてしまいました。これは自動車運転過失致傷罪に該当する行為です。
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
自動車運転死傷行為処罰法第5条
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
このように、刑罰を決めるのが刑事事件です。
ところで、刑罰を執行するのは誰でしょうか。これは法務大臣、つまり国が行うことになります。ですので、誰が当事者なのか?という観点で刑事事件を整理すると、国が、個人に対して、刑罰をすることができるか?という法律関係を決めるのが刑事事件ということになります。
民事事件とは
これに対して民事事件とは、国と個人の間の法律関係を決める事件ではなく、個人と個人の法律関係を決めるための事件をいいます。
AさんはBさんに大怪我を負わせてしましました。これは民事関係で1番基本となる民法という法律の不法行為に該当する行為でもあります。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法第709条
つまり、Aさんは、うっかり(過失)によって、Bさんの身体に障害を負わせた者(他人の権利を侵害した者)ですので、Bさんに生じた損害(治療費や怪我により働けなくなった分の金額など)を賠償(支払う)責任があるということです。
このように、Aさんという個人が、Bさんという個人との関係でどのような法的な責任を負うかを決めるのが民事事件です。つまり、刑事事件とは問題となる当事者が異なるし、求められるのも刑罰などではなく損害賠償など金銭的な解決などが中心になるということです。
まとめ
以上のとおり、国家が個人に対してどのような刑罰をするかというのを決めるのが刑事事件、加害者と被害者など、個人間の法的関係を決めるのが民事事件ということになります。
最近でいえば池袋自動車暴走事件などが注目を集め、東京地裁が禁錮5年の判決を下しましたが、これは刑事事件です。つまり、国が被告人に対してどのような刑罰を課すかという点について争い、5年の禁錮刑と決めた事件になります。控訴しなかったことにより、刑事事件はこれで確定しました。
ただ、上記のとおり、被害者やそのご家族という個人が、加害者である飯塚さんに対して、損害賠償請求を求めていくことも可能で、そちらは民事事件となります。報道によればこちらも提起されており、今後事件がすすんでいくとおもいます。
そもそも命をお金になんて変えられないじゃないか!という意見も聞こえてきそうですが、法律は、命の価値をおかねしているわけではありません。このあたりはまた別の機会に。
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